―― 『次に逢うときは敵になるかもしれないけど・・・・』










Tea Time wiht You











「・・・・確かそう言って別れたんだったな。でも」

ゼクセン騎士団長クリス・ライトフェローはどこか疲れたような、呆れたような口調で溜息をついて言った。

「なんで別れて半月もたたないうちに私は貴方とお茶など飲んでいるんだ!?」

「俺が遊びに来たから。」

けろっと言ってクリスにの向かいにいた元炎の英雄ヒューゴはルイスが出してくれたクッキーをかじる。

「それはそうだが!」

「あ、もしかして忙しかった?だったらごめんね。」

「いや、別にそれほど忙しかったわけでは・・・・待て、話がずれているぞ?」

危うくヒューゴのペースに乗せられてしまいそうになったクリスは、ヒューゴを睨んだ。

その視線を受けてヒューゴは軽く頬をかく。

「やっぱり誤魔化されないか。」

「誤魔化されるか!」

「なんだよ、もうちょっとで誤魔化されそうになったじゃないか。」

「うっ・・・・気が付いたから良いんだ!」

「ちぇっ。」

「それで?」

「?」

「なんでわざわざゼクセンまで来たんだ?まさか本当に私とお茶を飲むためじゃないでしょう?」

そんな言葉を唇に乗せるクリスの顔は完全にゼクセン騎士団長のもので、ヒューゴは半分感嘆、半分落胆する。

感嘆はいつでも騎士団長であるという立場を忘れることなく、一瞬でその姿に戻ることが出来る器用さに。

落胆は思惑がなければ自分がクリスに会いに来るわけがないと彼女に判断されているという実感のために。

はあ、とヒューゴは小さく溜息をついた。

(もう少したってから言いたかったんだけどなあ。変なところで誤魔化しがきかないし・・・・)

ゼクセンの騎士団を預かる者がそう簡単に誤魔化されるのもどうかと思うが。

仕方がない、と覚悟を決めて口を開いた。

「クリスさん。」

「何だ?」

「俺が貴女に会うためにゼクセンまで来るのはおかしい?」

「?」

「俺は貴女に会いたくて来たんだけど。」

「はあ?」

ルシアに見られたら何を間の抜けた顔をしているんだと大笑いされそうなほど、きょとんっとした顔でクリスは聞き返した。

その表情にヒューゴはため息をつく代わりに紅茶を一口飲んだ。

(どうせそう言われると思ったけどね。)

クリスの中での自分の認識は。

クリスの中できっと自分は、ルルの事でずっとクリスを憎んでいる子どもで、いつ敵に回るとも知れないカラヤ族の次期族長で。

でも自分の中でのクリスの認識は・・・・

ヒューゴはカップから視線を上げて真っ直ぐにクリスを見た。

結い上げられた銀の髪、透き通るようなアイリスの瞳、この美しい戦女神の事を先の戦いの時、何度追い求めただろう。

最初は仇として、同じ軍で戦うようになってからは会うたびにバツが悪そうに目をそらす彼女の視界にどうしても映りたくて。

彼女への想いを否定しようと必死になった事もあったけど、今はもう諦めた。

あまりにも惹かれすぎて、逃げることなどもうできない。

だから

「会いに来たんだ。」

繰り返されてクリスは困ったように視線を行ったり来たりさせている。

大方、からかわれたとでも思ってこの場を切り抜ける言葉を探しているのだろう。

(でも、そう簡単には逃がしてあげないから。)

クリスにばれないように人の悪い笑みを浮かべたヒューゴは紅茶のカップをそっと置く。

そしてほんの少し、クリスに近づくように身を乗り出す。

それにクリスが気が付くより早く、ヒューゴはクリスの右手をすくい上げるように捕まえた。

「!?な、なに?」

「クリスさんが鈍感なのはパーシヴァルさんやボルスさんの苦労を見ていてよ〜く知ってるから。」

「なっ、ど、鈍感!?」

「うん、そうとう直球でも正しく受け取れないんだよね。」

「そんなことない!わ、私は運動神経だけは自信がある!」

「・・・・誰が運動神経の話をしてるんだよ。」

はあ、とため息をつかれた事に腹を立てる余裕もクリスにはなかった。

先程から一生懸命ふりほどこうとしているのにがっちりと握られていてヒューゴの手からどうしても逃げる事が出来ない。

その上、逃げようとすればするほどヒューゴの手の力強さを直に感じているような気がしてどんどん心臓のあたりが落ち着かなくなっていくのだ。

(な、なんなんだ!?ヒューゴはこんな少年だったか!?)

なぜだか分からないが、逃げなければいけないとクリスの脳のどこかが命じていた。

と、いきなりヒューゴが軽くクリスの手を引いた。

「!!」

驚いて顔を上げた拍子にクリスの目が真っ正面からヒューゴのそれとぶつかる。

同時に、にっとヒューゴが笑った。

「まあ、俺の場合あの人達と違って長期戦もできるし。」

「は?あの人達?長期戦??」

意味がわからなくて首をひねるクリスの手をゆっくり持ち上げて

「こういうこと。」










―― 素早くクリスの右手、真の水の紋章の上にキスをした










「!!!!」

自分が何をされたか悟るやいなや火がついたように赤くなるクリス。

対してヒューゴはほんのちょっと頬を染めたぐらいで彼らしい屈託のない笑顔で言った。

「長期戦覚悟で、これから貴女を口説くから。以後、よろしくです。」

「よ、よ、よろしくって・・・・!」

ぱくぱくと口を開けたり閉めたりしているクリスの手をあっさり開放してヒューゴはすとん、と元の位置に戻る。

そしてさっきおいたカップを取るとどこか挑戦的に持ち上げて言った。

「取りあえずは一緒にお茶から始めたいんだけど?」


















                                                    〜 END 〜










― あとがき ―
「ヒュークリ一揆」に参加させて頂いた作品その1です。
一応うちのサイトの幻水創作は全部タイトルを英語で表記しているため改題させて頂きました。
笑っちゃうほど未熟さ全開なヒュークリですが、この頃、ヒュークリが一番のブームだったためハイテンションで応募してしまいました。
・・・うう、今考えると恐ろしいほど未熟だ・・・
とにかく攻めヒューゴが好きなんだぞー!というのを主張したかった模様(^^;)
しかもこれ続くんです。